三十二

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「艶…可哀想になぁ…。艶は悪い事なんて一つもしとらんのにな…」 沖田が出ていったあと、近くで様子を伺っていた山崎が静かに艶の側に腰を降ろした。 「なんでやろなぁ…。艶…笑ってくれよ…みんな待ってんで?…佐之も…艶に早く会いたいはずや…忘れたら……あかんで……」 目の前で眠る艶はずっと苦しい顔をしていて、それを見ている山崎も頬が強張る。 そっと頭を撫でてやると艶の閉じられた目尻から一つ、涙が伝った。 「神さんは意地悪やなぁ。…なぁ?艶…。」 涙を拭って頬に手を添える。 「……ん……っ…」 「艶?気がついたんか?」 クッと眉間に皺を寄せて、ゆっくりと艶の目が開いた。 「艶?大丈夫か?痛いとこ無いか?」 声の主を探して目だけが山崎の方へ向いた。 「艶!心配したんやで?」 頬に手を伸ばそうとして、 頬に届く前にその手は宙に浮いた。 山崎を見る艶の目が恐怖に揺れたように見えたのだ。 「あ…山崎…さん…?」 「すまん…総司呼んでくるな…?」 どうにか固い笑みを浮かべて、 部屋を後にした。 .
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