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昼休みが終わってからも、梓の機嫌は悪いまま。仕事中はそういうわけにもいかないから、得意の愛想笑いは流石だった。 定時になって、携帯を確認すると泉さんからメールが届いていた。 私達が店を出てからしばらくして送ったらしい、画像付きのメール。 開くと、ムスッとした榊原翼と、笑顔の杏さんがピースサインをして写っていた。 思わず笑みがこぼれる。 メールの返信をしながら歩いていると、角を曲がったところで誰かにぶつかった。 そのせいで、携帯がすべり落ちる。 「す、すみません。大丈夫ですか?」 「いえ、こちらこそ……」 言葉が途切れたので顔をあげると中野君だった。 「……お疲れ」 「ああ。ほら」 落ちた携帯を渡された。 別に中野君に気をつかう必要はないけど、あの一件以来、気まずい。 「ちゃんとケリつけたみたいだな」 「おかげさまで。何してるの? こんなところで」 もう少しで社員出入口。 自販機もない、喫煙所でもない場所ですることは? 「誰か待ってるの?」 「お前に関係ないだろ」 相変わらず愛想がない。 「中野君ってさ、好きな人とかいるの?」 一瞬、何聞いてるんだコイツ、みたいな目で見られたけど気にしない。 「答える必要があるのか?」 「ただ気になっただけ。言いたくないならいい」 予想通りの反応にため息も出ない。 「お疲れ、結華。と中野君。何してるの?」 やっぱり、ここにいるとこの質問するよな。
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