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「ぶつかっただけ」 「気をつけなよ。じゃあ先行くね」 中野君とわかれるいい口実になると思って、梓の後を追いかけようとした。 「あず……」 追いかけようとして、出来なかった。 いつの間にか掴まれた腕。 誰になんて考えなくても分かりきってるけど、思わず振り返った。 でも、腕はしっかり掴んでいるくせに視線は私に向けられてはいなかった。 私を越えた向こう。 中野君の視線の先には自動ドアをくぐる梓と、数回しか挨拶したことない上城君。 ふたりが一緒に歩き出すと、姿は見えなくなり腕を掴む力が弱くなった。 「……え、中野君って。まさか」 「うるさい」 静かすぎる空間に冷たい一言が響く。 「勘違いするな。そんなんじゃない」 「だって」 じゃあ、さっきの梓を見ていた表情はなに? 自覚ないの? 掴もうとしていた手は、私を誰と重ねていた? 「お前があいつらの邪魔になるから止めただけだ」 「それなら、すぐにわかれて帰ってたよ。なんで引き止める必要があるのよ」 「なんとなくだ」 「なにそれ。中野君だって人のこと言えないじゃない」 「……どういう意味だ?」 「ケリつけられてないんでしょ? だから……」 「知ったふうな口きくな。お前にあれこれ言われたくない」 「なっ」 「……結華と、尚樹どうした?」 今回は空気が重かったのか、和希が恐る恐る声をかけてきた。
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