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「……なんでもない」 「コイツがぶつかってきただけだ」 「お前の次はコイツ呼ばわり? 人の名前ぐらい言えないの?」 「分かったから吠えるなよ。和希、あと任せた」 「ちょっと!!」 完全にやり逃げされた。 否定するくせに、矛盾する行動をしてる。 「あ」 背中を向けといて、また戻ってきた。 「相模に余計なこと絶対言うなよ。言ったらただじゃおかないからな」 耳元で囁かれた小さな声は、背筋が冷たくなるほど低かった。 「じゃあな。和希、神白」 中野君の姿が見えなくなると、和希の声で意識を持ち直した。 「結華? 大丈夫か?」 「あぁ、うん。なんとか」 さっきは、中野君が意味不明な行動してるのを見て、イラついて売り言葉に買い言葉になってしまったけど…… 本当にそうなの? 今になって驚きが頭を支配する。 「俺達も帰るか。送るよ」 「え? 遅くないしいいよ」 「俺が心配なだけ。行くぞ」 自然に繋がれた手。 単なるスキンシップだ。 頭が混乱してる今は、丁度いいかもしれない。 それとも、和希には私の動揺っぷりが目に見えてひどいのかもしれない。 「……ありがとう」 「気にすんなよ。帰ったらゆっくり休め」 中野君と何があったのか聞かない。 聞かれても困るけど。 それが和希にはお見通しみたいだった。
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