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「言いたくないなら聞かないけどさ」 前を向いたまま和希が静かに呟く。 「溜め込むなよ。それじゃいつか爆発するぞ」 「……分かってる」 最も、そういう自覚がないから溜め込んでしまうんだろうけど。 「和希はそういう時はどうしてる?」 「うーん、とりあえずは聞いてくれるやつに聞いてもらうことかな。一人でいたいときはボーリングとかバッティングセンターとか?」 いつも誰かと一緒だし、和希の周りには人が集まるから一人がいいと思う瞬間に少し驚いた。 「中野君?」 「が一番多いかな。なんだかんだで、聞いてくれるし間違いなこと言ったらちゃんと言ってくれるやつだからな」 私にとっての梓みたいな存在かな。 性格が全然違うところまで少し似てる。 「それより、結華はどうなってるんだ?」 「なにが?」 「人の心配もいいけど、まずは自分だろ? なんか進展はあったか?」 「……なし」 「はぁ? なにやってんだよ」 呆れた表情の和希。 ポンッと頭に乗っかった大きな手。 「ゴメン」 「謝るなよ。そいつともなんかあったか?」 「ううん。なにもない。どう動いていいかもよく分からない」 「分からない、がもう口癖になってるぞ」 「……そうみたい」 顔を合わせるとどちらもおかしくなって笑った。 良かった。 ちゃんと笑い合ってる。
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