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「無理に答えを出そうとしなくていい。結華は笑ってるほうがいいからな」 また、さりげなく嬉しいことを言ってくれる。 「……しっかり答えを出して早く伝えるよ。中野君みたいにイライラする人もいるし、皆が和希みたいに優しくない」 それに、私自身が嫌だ。 「俺は優しくないよ。ただ、目の前の欲しいものを取られたくなくて足掻いただけだ」 フッと一瞬だけ影が出来たのを見たくなかったけど、目をそらさなかった。 だって、私が彼につけた傷だ。 「だから、結華にはいいやつと一緒になって欲しい」 影が出来たのは本当に一瞬で、顔を見ればもういつもの優しい笑みの和希だった。 「……和希は強いね」 一生懸命前に進もうとしてるのに、肝心の私が全然前に進めていない。 「何言ってんだよ。強いやつなんかいない。皆強がってるだけだ。俺も尚樹も相模や結華だってそうだろ?」 言われて気づく。 私自身はもちろんのこと、時折見せる梓の寂しそうな顔。 想いを伝えられてからの和希の戸惑いの表情。 遠くから梓を見ていた中野君。 皆、強くないんだ。 ただ、言葉や表情に出さないだけで。 「そっか」 やっぱり、前に進まないといけない。 私ひとり、後ろ向きなんて嫌だ。 「明日もその顔で来いよ」 以前にも梓に似たようなことを言われた。 私って顔に出やすいのかな?
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