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「今日だって、結華は何も言わなかったけど本当は聞きたかったんじゃないか?」 「……」 「お前が結華を心配しているように、結華だって心配してんだよ」 「……あんたに言われなくたって」 「なら、尚更素直になることだな。そこは結華も同じだけど、自分が助けたい相手に突っぱねられると寂しいもんだよ」 「……もういい。帰る」 立ち上がる音がしたあとに、優しい声。 「結華、起きて。帰るよ」 寝てはいなかったけど、寝てたってことにしておこう。 「じゃあ、杏さんと泉さんによろしく」 いつの間にかふたりとも寝ていた。 「ああ。結華、また連絡するよ」 ぼんやりした頭では、ただ頷くことしかできなかった。 帰りのタクシーの中で、繋がれたままの手。 遠くを見つめている梓が小さくて、いつもの姉御肌が嘘みたい。 「結華」 「ん?」 「私、榊原翼キライ」 「そう」 「でも、あいつが結華に対してはいい加減じゃないってことは分かった」 それは、どこで分かったのか分からないけど、梓はスッキリしたようだ。 「……結華、私ね。迷ってるんだ」 「珍しいね。梓が悩むなんて」 「うん。どうしよう」 何をとは聞かなかった。 これだけ悩んでも、言えるものならとっくに言ってるだろう。 今はまだ聞かなくてもいいや。 「梓が決めたことなら、私は応援するよ。協力もする」 「……ありがとう」 「ん。でも、落ち着いたら教えて」 「うん。もう少し待ってて」 「いつまでも」 流れる景色と輝く光が、微笑んだ梓を照らす。 まだまだ、私達は知らないことが多いんだ。 初めて会ったときよりも強く思った。 もっと、梓を知りたいなって。
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