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「いらっしゃいませ」 杏さんに誘導され部屋に入れば、営業スマイルをする榊原翼と泉さん。 「今日はよろしくお願いします」 「もーそんな堅くならないでよ。結華ちゃんはいつも通りでいいんだから。ねぇ先生?」 「あぁ。結華はお客さんだしな」 ふたりに言われて緊張してるのがバレバレみたいだ。 「じゃあ、翼、泉チャンあとよろしく。結華チャンまたあとでね」 杏さんは手をヒラヒラ振ると、部屋を出ていった。 「たくさんあるね」 テーブルに綺麗に並べられたメイク道具。 大小さまざまな筆。 色鮮やかなアイシャドウ。 ピンクやオレンジでもかすかに違う色とりどりのリップ。 「それは最後ね。頑張って可愛くするから」 泉さんに促され、全身が映る鏡の前の椅子に座る。 後ろに彼が来て、髪に触れる。 「な、なに?」 「いや、綺麗だなと思って」 「先生、仕事してください」 「少しぐらいいいだろ。久しぶりなんだから」 「知りませんよ。今は結華ちゃんお客様なんですから真面目にやってください」 どっちが先生だが分からない。 ふたりのやり取りに思わず笑ってしまう。 「……緊張はとけたかな?」 私が頷くとA4サイズのボードを渡された。 「ここまで記入してくれる?」 用紙には名前とか好きな色や嫌いな色。趣味を記入する欄があり、他の半分ぐらいは何に使うかさっぱりだった。 「はい」 簡単に書き込み泉さんに渡すと、それを合図に鏡越しに映る彼と泉さんの表情が変わる。 「それでは始めさせていただきます。今日、神白結華さんのプライベートカラーを見させていただく榊原翼です」 「アシスタントの冬谷泉です」 今度は隣に立たれ、真面目な挨拶。 鏡越しではない彼。 いつもと少しだけ違うように見える。
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