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「普段はブラウンが多いの?」 「そうですね。仕事柄あんまり派手なメイクは出来ないし」 「じゃあ、お休みの時に試してみて。シャドウを変えるだけでも印象は変わるもんよ」 鏡越しから杏さんが微笑む。 「悪いけど、メイク落としてもいい? スキンケアからして土台を整えてからがファンデーションのノリがいいの」 「いいですよ。おまかせします」 美容に興味がないわけじゃないけど、杏さんがやるならもう何もしなくていいぐらい、なんだか安心感が大きかった。 「あ、翼は出てね」 「ダメ?」 「当たり前です!」 可愛いらしく首を傾げてみても、やっぱり彼氏でもない男性に素っぴんは晒したくない。 「終わったら呼んでな」 「ビックリさせてあげる」 出て行ってから、クレンジングと洗顔をする。 自宅や梓の家以外で化粧を落とすのは初めて。 「なんか恥ずかしいですね」 「女同士だから気にしなくていいの」 座ってから、美容液や化粧水と乳液にしっかりクリームまでしてから下地。 杏さんの手が凄く気持ち良い。 「誰かにメイクしてもらったことは?」 「ないですね。モデルにでもなったみたい」 「私で良ければ、結華チャンの結婚式の時は是非メイクさせて。最高に綺麗にしてあげる」 「気が早いですよ」 「そうかもしれないけど、予約しておくね。あ、髪もいじらせてもらっていい? それは泉チャンに変わってもらうから」 結婚という単語はどこか他人事のようで、自分自身で実感も現実感も全くない。 「……結婚ってどんな感じですか?」 思わず聞いてしまった。 経験者に聞くのが一番早い。
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