2834人が本棚に入れています
本棚に追加
「普段はブラウンが多いの?」
「そうですね。仕事柄あんまり派手なメイクは出来ないし」
「じゃあ、お休みの時に試してみて。シャドウを変えるだけでも印象は変わるもんよ」
鏡越しから杏さんが微笑む。
「悪いけど、メイク落としてもいい? スキンケアからして土台を整えてからがファンデーションのノリがいいの」
「いいですよ。おまかせします」
美容に興味がないわけじゃないけど、杏さんがやるならもう何もしなくていいぐらい、なんだか安心感が大きかった。
「あ、翼は出てね」
「ダメ?」
「当たり前です!」
可愛いらしく首を傾げてみても、やっぱり彼氏でもない男性に素っぴんは晒したくない。
「終わったら呼んでな」
「ビックリさせてあげる」
出て行ってから、クレンジングと洗顔をする。
自宅や梓の家以外で化粧を落とすのは初めて。
「なんか恥ずかしいですね」
「女同士だから気にしなくていいの」
座ってから、美容液や化粧水と乳液にしっかりクリームまでしてから下地。
杏さんの手が凄く気持ち良い。
「誰かにメイクしてもらったことは?」
「ないですね。モデルにでもなったみたい」
「私で良ければ、結華チャンの結婚式の時は是非メイクさせて。最高に綺麗にしてあげる」
「気が早いですよ」
「そうかもしれないけど、予約しておくね。あ、髪もいじらせてもらっていい? それは泉チャンに変わってもらうから」
結婚という単語はどこか他人事のようで、自分自身で実感も現実感も全くない。
「……結婚ってどんな感じですか?」
思わず聞いてしまった。
経験者に聞くのが一番早い。
最初のコメントを投稿しよう!