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「なんですか?」 「結華チャンにプレゼント。カラーに来てくれたお客さんにいつも渡しているの。気に入ってもらえたら嬉しいな」 「あ、もしかして杏さんの手作りのやつですか?」 「私の自信作よ」 そう言って杏さんの手から私の手のひらに移動した小さなプレゼント。 「あけてもいいですか?」 誰かから贈り物をもらうことも、年をとるごとに減っていく。 今では梓からぐらいかもしれない。 だから、本当に嬉しかった。 「ちょっと待って。あとリップで終わりだから。口をえの形にしてくれる?」 メイクをやってもらうのも、こうしてリップまでやってもらうのも初めてのことばかり。 「はい、終わり。どう?」 鏡を正面にして、改めて自分の顔を見てみる。 「……凄い」 自分でも普段しているけど、さすがプロ。 腕の違いがよく出てる。 「今日はカラーも見てもらったしシャドウとリップをピンクにしてみたの。普段がブラウンならリップだけでもピンクにするとかね。パール感があるほうが結華チャンにはいいかな。まぁメイクは気分で左右するからね」 筆が置かれ、髪を纏めていたピンやケープが外された。 「うん、可愛い」 「先生呼んできますね」 泉さんが部屋を出ていく。 「……わざわざ呼ばなくても」 「まぁまぁいいじゃない」 「連れてきましたよ」 泉さんの後から彼が入ってきた。 「……」 「……」 見た瞬間に何か言われると思ったのに、意外にも無言だった。
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