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「自分から名乗ったらどうです?」
「あぁ。失礼しました。俺は榊原 翼です。君の名前は?」
なまじ顔がいいと、こういう丁寧な言葉づかいや仕草は反則だ。
「神、」
「ちょっと翼! あたしのことほったらかにして何浮気してんのよ!!」
「李玖」
「あたし、ずっと楽しみにしてたんだから!」
彼女の怒声に意識が戻った気がした。
なに馬鹿正直に言おうとしてるんだろう。
「頼むから少し大人しくしててくれよ」
「ヤダ! 約束したじゃん!」
……なんだか嫌な雰囲気だ。
そもそも、痴話喧嘩に付き合う義理もない。
「さよーなら」
「あ、ちょっと!」
「翼! どこいくのよ!?」
背中に騒がしい声がのし掛かる。関係ないのに不愉快な思いをした上に、痴話喧嘩に巻き込まれるなんて災難としか言えない。
嫌な気分を引きずって帰るのもスッキリしない。
「どーしよ」
梓には昨日も付き合ってもらったし彼氏に悪い。
誰か空いてるかと携帯を開くといつの間にかメールを受信していた。
「坂井君だ」
内容は簡潔に名前と番号と一言だけ。
メールを受信したのは三十分前だけど、ダメ元で電話してみる。
意外には応える声と繋がった。
「もしもし、坂井君?」
「神白? どうしたんだ。今日休みだろ」
「うん。ただ気分良くないから都合良ければ飲みに行かない?」
「あと二時間ぐらいかかってもいいなら付き合うよ」
「ん、平気。じゃあカフェで時間潰しとくね」
「終わったら連絡するよ」
「わかった」
電話を切って、いい雰囲気のカフェを探しを始めた。少しだけ、テンションが上がった。
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