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「……だから会わせたくなかったんだ」 彼が小さく呟いたのが聞こえてしまった。 「聞こえてるわよ、翼」 「行くぞ、結華」 「それじゃお邪魔しました。また来ますね」 出ていこうとする彼に、慌てて杏さんと泉さんに軽く頭を下げた。 「またね」 「楽しみにしてるわ」 手を振られ笑顔で別れた。 彼はなんだか不機嫌そうなんだけど。 「………」 「今日はありがとうございました。凄く楽しかった」 お礼を言うのは二度目だけど、本当に良かった。 「気に入ってもらって良かったよ。今日は邪魔が多かったな」 「杏さんと泉さん? いい人達だね。お姉さんが出来たみたいで嬉しい」 兄しかいない私には、義理でも姉がいるのが羨ましい。 「うるさい義姉で困るよ」 肩をすくめて言っている姿は煩わしそうだけど、内心は絶対違う。 「帰ったら怒られるんじゃない?」 「いつものことだから平気」 いつも何かしら怒られているところを想像したら、なんか可笑しくなった。 「……なに笑ってんの?」 「別に?」 零れそうになる笑いを抑えて少しずつ駅に向かう。 隣を歩いていた彼と距離が出来る。 「……また」 「え?」 距離ができたことで、少し声が遠い。 「また、会いに……」 「結華?」 最近、社内で会うから忘れてた。 彼は営業だったこと。
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