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「和希」 「お疲れ、って今日休みだったんだ」 「うん。お疲れ様」 「そちらは?」 一瞬忘れていた存在。 えーと。 なんて言ったらいいんだろう? 友達、じゃないし。 「……知り合いの、榊原翼さん」 間があいてしまったことに触れず、和希はにこやかに彼に右手を差し出した。 「初めまして、結華の同僚の坂井和希です」 「どうも、榊原翼です」 なんだか不思議な光景だ。 ふたりが握手したまま、会話を続けている。 「彼氏さん?」 「そうなる予定ですね」 和希の質問にも驚いたけど、彼の答えにもっと驚いた。 私が割って遮ろうとしたら、和希がとんでもない言葉を口にした。 「じゃあ、気持ちがなくなったら言ってください。俺がもらいますから」 「ちょっと和希!」 私の抗議の声は虚しく、続けられる会話の流れがよろしくない。 「お気遣いどうも。必要ないから大丈夫です」 「そのわりには知り合い止まりなんですね」 「……まだ日が浅いので」 珍しく彼の笑顔がひきつっている。 普段の和希も、こんなに畳み掛けるような嫌な言い方はしない。 「結華を泣かせるようなことはしないでくださいね。その時は全力で奪いますから」 「そんなことにはなりませんよ」 どこからくる自信なのか、思わずポカーンと聞いていた。 「大した自信で何よりです。じゃあ、またな結華」 最後にもう一度軽く力を入れて手を放し、すれ違う際にウィンクする和希と目があった。
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