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もう、遅いけど。
これ以上、和希に甘えるつもりもない。
「もういいから。さようなら」
もう駅まで来たようなものだ。
早くひとりになりたかった。
「結華、悪い。八つ当たりして……ただ、あいつが馴れ馴れしく結華に接するから」
掴まれた腕が痛い。
でも、ズキズキしてる心臓のほうがもっと痛い。
「人のこと言えないでしょう」
「……まぁ」
「帰るから、離して」
「……」
離れそうにない雰囲気に、小さくため息をついた時に、一回だけ見た顔が近づいてきた。
「あれ、結華ちゃん? と怒りっぽいお兄さん」
だいぶ前に駅で会ったナンパ君。
名前を覚えていたのも意外なぐらい。
「また会ったね。またケンカしてんの?」
以前会った時は、ラフな格好していたけど今日は制服だった。
「またってのは余計。高校生だったの?」
「一応ね。来年、大学生」
「ナンパなんかしてんじゃないわよ」
「だから、ちゃんとお勉強してるじゃん。ところで、お兄さんはまた怒ってるみたいだけど、俺が原因じゃないよね?」
「……君が来る前にちょっと、ね」
「まぁいいや。前に言ったこと覚えてる?」
「前?」
「また会ったらアドレス教えてって」
「忘れた。というか嫌」
「えーひっどいなぁ。じゃあ、お茶ぐらい付き合って」
私とナンパ君の会話に、彼の拘束が緩くなっていた。
その隙に、ナンパ君が私の手を取って走り出す。
いきなりの展開に何も考えられなかった。
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