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「ごめんね、月斗君」 「月斗でいいよ。君づけなんてガキ扱いされてる気がする」 「充分ガキじゃない」 「……結華ちゃんって見た目によらずキツイよね」 「そう? 月斗が生意気なのよ」 私より少しだけ高い背丈。 可愛らしい反応に、弟がいたらこんな感じなのかなって思う。 「良かった。笑ってくれて」 その一言に、緩やかな空気が一瞬で止まる。 「……理由、聞かないの?」 あの重い空気に割って入れたのも、月斗だからこそだと思う。 ふたりになってから、すっかり忘れていた。 いや、月斗が考えないようにしてくれてたんだ。 「聞いても面白くなさそうだし、あのお兄さんが原因ならむしろ聞かない」 「なにそれ」 「痴話喧嘩の仲介役なんて一番損な役目じゃん」 ようは面倒事に関わりたくないみたい。 でも、こうしてる時点で首は突っ込んでると思うけど。 「じゃあ言わない」 「うん。その代わり、結華ちゃんのこと教えてよ」 「聞いてどうすんのよ」 「知ってる事が増えたら仲良くなった気がしない?」 「……知らないよりはね」 「だろ」 スッと伸ばされた手。 「改めて。月斗、来年大学生になります。好きなことはバスケ。彼女募集中」 「結華。受付嬢してます。好きなことはショッピング。彼氏はいなくてもいいかなと思い中」 短い時間とはいえ、同じ空間を共有した人の手を振り払って、今は全然知らない人の手を取っている自分が不思議でたまらない。 月斗の温かい手と屈託のない笑顔に、肩の力が抜けた。
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