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「今日はオフだ」 「あっそ。それで結華ちゃん悲しませたらダメじゃん」 「……お前に関係ない」 「うん。じゃあ俺と結華ちゃんの関係もお兄さんに関係ないよね」 掴まれたままの手。 強く握られていない。 動けば、スルリと抜け出してしまえるぐらい。 「……目の前であんなことされて黙ってられるか」 「もしかしてまだだった? お兄さん手早そうなのに」 「うるさい」 月斗とやりとしている中、彼と視線が合う。 「結華、帰ろう」 月斗に向けられたものとは違う、優しい声。 気のせいか少し泣きそうな表情に、月斗の手を離した。 「月斗。ありがとね。話し相手になってくれて」 手を離したけど、足はそのまま。 「連絡先教えてくれないの?」 「ダメ。もう少しいい男になって、尚且つ相手がいなかったら教えてあげる」 「じゃあ、すぐだな」 最後まで笑顔の月斗。 彼のところに行くと、安堵したため息。 「あ、結華ちゃんイイコト教えてやるよ」 振り返って、イイコトに反応する私。 「俺、結華ちゃんと会うの二回目じゃないから」 「……え?」 「正確には見ただけど。言い忘れてたね。俺、中野月斗。結華ちゃんと同じ会社にいる無愛想なのが俺の兄貴」 「……ウソ」 「マジ。だから名前までは知らなかったけど、見たことは何回かあったよ。美人なお姉さんとよく一緒にいるよね」 梓のことだ。 まさか、こんなに人懐っこい子と中野君が……兄弟? 「なんかあったら会社まで迎えに行くよ。じゃあね、結華ちゃん」 あっさりととんでもない事を言って去っていった。
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