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頭がついていかない。
唖然としていた私の手を彼がソッと包んだ。
「……誰、あのガキ」
「前にナンパしてきて、同僚の弟みたい」
最後は今さっき聞いたばかりだけどね。
「行くよ」
手を引かれて歩きだす。
色々と聞き出されると思ったら意外にもあっさりしてる。
でも、静かな怒りのオーラは感じるから何も言えない。
「……心配した」
「……うん」
沈黙だけで、周りの音が鮮明になったように錯覚する。
駅まで来てようやく足が止まり、彼の視線が痛いぐらい感じる。
「今日はありがとう。ゴメン」
「何が?」
色々ありすぎて、どれに対して謝っているのか分からなかった。
「自惚れてたんだ。結華のこと知ったつもりで。実際は全然知らない。だから同僚の奴と一緒にいたのも、ナンパのガキに目の前で持って行かれたのも嫌で。本当は」
久しぶりによく話す彼に、あぁこの人って寂しがり屋だったなと思い出した。
「……本当は、ずっと傍にいたい。誰にも触らしたくない」
離れずにいた手がかすかに震えていた。
「好きだよ。初めて会った時から、ずっと」
生まれてから今まで、こんなに胸が痛くて泣きたくなった告白はない。
「本当はもっとしっかりキメたかったのに、ダメダメだな」
肩をすくめて苦笑いを浮かべ手を離した。
「……ヤキモチ、だったの?」
「……それ以外あるか?」
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