11

12/20
前へ
/395ページ
次へ
「あ、榊原翼さんの携帯ですか?」 身体中の血がサァと引いていく感じ。 さっきより思い切り手を伸ばしても届かない。 「偶然、結華ちゃんの会社の前で会ったんですよ。それより、今すぐに結華ちゃん迎えにきてくれません?」 言っている意味が分からなくて、ポカンと聞いてるしか出来なかった。 「なるべく早くお願いしますよ。そうじゃないと、俺が襲っちゃいますから」 通話をなんだか一方的に終わらせて、すぐに携帯を返してくれた。 「もう少ししたら迎えにきてくれるよ」 イタズラが成功したみたいにニッカリと笑う。 「……なんで翼を?」 「どうせ、俺の前じゃ泣けないでしょ。だったらこの間みたく素直にしてみようかと思って」 あれは、月斗に和希と偶然重なったっていうのも大きいんだけど。 「弱音もムカつくことも言っていいじゃん。何も知らないほうが不安だし寂しいじゃん?」 それは今、凄く実感していることで。 月斗の言葉が胸にストンと落ちてくる。 「……うん、寂しい」 悔しいとか嫉妬していても、私はただ知らない梓を見て寂しさを感じていただけなんだ。
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2834人が本棚に入れています
本棚に追加