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「あ、榊原翼さんの携帯ですか?」
身体中の血がサァと引いていく感じ。
さっきより思い切り手を伸ばしても届かない。
「偶然、結華ちゃんの会社の前で会ったんですよ。それより、今すぐに結華ちゃん迎えにきてくれません?」
言っている意味が分からなくて、ポカンと聞いてるしか出来なかった。
「なるべく早くお願いしますよ。そうじゃないと、俺が襲っちゃいますから」
通話をなんだか一方的に終わらせて、すぐに携帯を返してくれた。
「もう少ししたら迎えにきてくれるよ」
イタズラが成功したみたいにニッカリと笑う。
「……なんで翼を?」
「どうせ、俺の前じゃ泣けないでしょ。だったらこの間みたく素直にしてみようかと思って」
あれは、月斗に和希と偶然重なったっていうのも大きいんだけど。
「弱音もムカつくことも言っていいじゃん。何も知らないほうが不安だし寂しいじゃん?」
それは今、凄く実感していることで。
月斗の言葉が胸にストンと落ちてくる。
「……うん、寂しい」
悔しいとか嫉妬していても、私はただ知らない梓を見て寂しさを感じていただけなんだ。
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