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「……ありがとう」
「どういたしまして。今日は素直だね」
「たまにはね」
ソッと顔をあげると、翼との距離があまりにも近かった。
いつもならすぐに視線を外すところだけど、翼の瞳が真っ直ぐ過ぎて逸らせられない。
大きな手が頬に当たって、当たり前のように私は目を閉じた。
この間みたいに一瞬で終わったキスじゃなく、優しくてずっとしていたいと思わせるキスに頭がクラクラする。
「本当に今日は素直だね。止まんないかも」
「え?」
「今日、家くる?」
「明日も仕事」
「離したくないんだよ。もう少し一緒にいて」
遮られて、抱き締める力が強くなった。
首筋に翼の吐息が当たる。
「うん。一緒にいて」
翼の背中に手を回して、ポンポンとしてみる。
「……いつの間にか俺が結華に甘えてるな」
「いいんじゃない?」
「ダメ。素直な結華可愛かったのに」
「どうせ普段は素直じゃないわよ。で、どうするの?」
「……とりあえず事務所戻っていい?」
ハッとしてから徐々に暗くなる翼に、なんとなく想像できる。
「仕事、途中で抜けてきたの?」
「いや、別に客がいたわけじゃなくて。冬谷に任せてきた」
「大丈夫なの? 今頃、かなり怒ってない?」
「……だから、とりあえず戻る」
大きなため息を吐いてる様は、大型犬が耳と尻尾が垂れてシュンとしているみたいで、ちょっとだけ可愛かったけど言ったら余計凹ませそうで止めた。
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