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「……おかえりなさい、先生」
「た、ただいま」
事務所に戻ってからおずおずと扉を開けると、意外にも泉さんは笑顔だった。
「いきなり出て悪かった。何もなかった?」
さすがに罰が悪そうに泉さんに聞いていた。
泉さんはパソコンから翼に視線を向けてニッコリ笑って言った。
「えぇ。先生がいきなり飛び出してから、女性のお客様が今日に限って次々と訪ねてくるわ電話は鳴るわで大変でしたけどただそれだけです。別にお客様に睨まれたぐらいどうっってことないですから。杏さんが今日は早めに帰るからって雑務が沢山あった私をそのままに先生が帰るだなんて、私全然思ってなかったです」
「……スミマセンデシタ」
「あの、泉さん。今回は私が悪いんです。本当にすみません!」
頭を下げると椅子が軋む音がした。
「結華ちゃんが謝ることじゃないよ。これは先生が選んで行動したことなんだから」
「でも」
「んーじゃあ、お茶淹れてくれる? ちょっと疲れちゃって」
「はい! ちょっと待っててください」
泉さんに小さなキッチンスペースを教えてもらい、久しぶりに紅茶を淹れた。
ティーパックではなく、色々な種類がある茶葉の缶が沢山あった。
「ありがとう。美味しい。あ、先生はやること沢山あるからさっさとやってください」
「……お前いい性格してるよな」
「先生に言われたくありません」
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