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「ゴメン、結華。終わったよ」
「お疲れ様」
目を擦りながら時計を見ると、意識を失いかけてからあんまり時間は経っていなかった。
「待たせてごめんなさい」
「冬谷も飯行くか?」
「今日は遠慮しておきます。早く結華ちゃんを休ませてあげてくださいよ」
「あ、せっかくだからご飯行きませんか?」
「先生には今度、ご馳走してもらうから今日は止めておくよ。おふたりの邪魔をしちゃったみたいだし」
泉さんはフワリと微笑むと書類を片付けて、帰り支度を始めた。
「今日は悪かったな」
「二度とゴメンですよ」
鍵を閉めてから泉さんを見送ってから、自然と絡む手に嬉しくなる。
「何が食いたい?」
「うーん、そう言われてもなあ」
少しだけ休んだから、あんまりお腹は空いてなかった。
絡まった手に少しだけ力を入れれば、逆に握り返される。
会社を出た時はあんなに落ち込んでいたのに、翼が一緒で本当に良かった。
梓の初めて見た表情。
中野君の弱音。
月斗に言われた言葉。
翼の青ざめた顔。
泉さんの大人の女性の姿。
今日だけで、色々なことがあった。
きっと、以前の私なら気づかないことが多かった。
沢山の人達に触れて言葉を交わして、私は私を認めることが少しずつ出来てる気がする。
「じゃあ、俺のマンションでも行く?」
「……は?」
言われたことが理解出来なくて、ポカーンと翼を見上げた。
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