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「……嫌?」
「え、違う。ちょっとビックリして」
今まで二回翼のマンションに行ったことがある。
でもそれは、自分の意思に反してのことだった。
「あの、じゃあ一回家に帰って着替えとか明日いるもの取ってきていい?」
私の答えに翼の目が一瞬だけ止まる。
「いいよ。一緒に行く」
嬉しそうに私の手を引いた。
少し前の私なら完全拒否するところだ。
「ありがとう」
「正直、実感ない」
いきなり翼からのカミングアウト。
「幸せ過ぎて、なんかのドッキリとか明日には結華はいなくなってるんじゃないかとか色々考える」
しばらく、恋愛を避けていた私にとって翼の存在は最初から悪い意味でも特別だった。
些細なことで悩んで、軽い一言で嬉しくなって一喜一憂することに疲れていた。
特別がいなければ、疲れない。
振り回されることもない。
甘えられなくて可愛いげがないと振られた時も、凹みはしたがそれほど傷ついたってわけじゃなかった。
でも、それでも私は特別な人に愛されたかった。
今までの彼氏達に私はきっと特別だと思えなかったんだ。
だって、今は翼の存在が私の大半を占める。
「……翼こそいなくならないでね。そしたら、きっともう私は特別な人には出会えないから」
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