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翼の目が大きく見開いて私を見る。
「何?」
「……なんで今日そんなに可愛いことばっか言うんだ」
片手で目元を覆い、大きくため息をついた。
「俺のマンションに誘ったのだって結華行く気だし、今もまるで俺しか考えられないみたいな言い方するし」
動揺と照れが見て取れる。
普段の翼を知っているから、こんなに落ち着きがないのは珍しい。
ただ自業自得とは言え、伝わらないもどかしさが胸に広がる。
「……みたい、じゃないもん」
足を止めて、翼を見上げてもこちらを振り向かなかった。
「翼?」
「あ゙ーもう! 結華が悪いんだからな!!」
やっとこっちを向いてくれたと思ったら、なんだか不機嫌そうな顔で抱きしめられた。
そして、顎に手がかかり半ば強引に唇が重なる。
「……んっ、つば……」
唇が離れたわずかな間に名前を呼ぼうとしてみても、度重なる口づけにそれもできない。
「……早く、俺の家行こうか。もっと、結華に触れたい」
耳元で囁かれた言葉に顔に熱が集まる。
「凄い真っ赤」
「……翼のせいでしょ」
意地の悪い笑みを浮かべて、先程より早く歩く。
まだ、伝えていない言葉がある。
今日の私なら伝えられるだろうか。
たった一言。
二文字の言葉を中々口に出来ない。
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