12

3/26
前へ
/395ページ
次へ
「え!? あぁだからなんか似てると思った」 意外と近くにいたこともあり、さりげなく少し離れた。 「あ、珈琲ありがとう」 ソファーに戻って砂糖とミルクを適当に入れた。 味が全くしない。 「結華」 静か過ぎる空間に、翼の声が響く。 「な、なに?」 「緊張しなくていい。結華が嫌なら何もしないから」 柔らかい笑みだった。 ここに来たいと思ったのは私なのに、翼に気を遣わせてしまった。 「ち、違うの! 緊張はしてるけど、その、嫌とかじゃなくて!」 「そう?」 「ただ、あの」 恥ずかしいだけ。 久しぶりの感覚に、自分でどうしたらいいのか分からない。 「いいよ。結華のペースでいいから」 「……翼が余裕なのに、私は全然余裕がなくて。でも嫌じゃないから」 「分かってるよ。嫌なら結華絶対来ないだろ」 「……うん」 「結華は俺が余裕って言うけど、俺も同じだよ。余裕なんかない。余裕がないからここに誘った。今だけは俺だけのものにしたくて、触れたくて」 身体に指一本触れられていないのに、真っ直ぐに向けられた瞳に拘束されたよう。 「夢でもみてんのかなって思った。結華がそばにいて、受け入れようとしているのが凄い分かるから」 素直に胸にストンと落ちてきた。 私はこの人の特別でありたい、と。
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2834人が本棚に入れています
本棚に追加