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「相模相手じゃ勝負にならないな」
独り言のようだけど、かろうじて聞こえた。
「勝負?」
「こっちの話」
そう言ってビールを飲んだ。
ふと、梓が言っていた言葉を思い出す。
「誰かが居てくれるのはいいもんよ。女は力になれない時がある。男じゃないとダメな時はその人に思い切り頼ればいい」
坂井君が聞いてきた問いに、私は答えじゃない答えを出したらしい。
いつか、梓では手に負えないものがあった時、私の心配をしているんだろうか。
「神白?」
「なに?」
呼ばれて顔をあげると坂井君の顔が思ったより近くにあった。
「悪い。困らすつもりじゃ」
急に沈んだ空気。
周りは騒がしいぐらいなのに、ここだけ別室みたいだ。
「違うよ。ただ坂井君の言った意味を履き違えて言っちゃったかなと思って」
慌てて訂正する。
なんだかいつもの坂井君じゃないみたいだ。
「いや、神白らしいなって答えだったよ」
笑った顔はいつもの坂井君だ。
それに安心して、徐々に空気が和らいでいく。
「なんかあったら俺に言えよ」
「ありがとう。坂井君っていいやつね!」
思ったことをそのまま言ったら、何故か大きなため息をついていた。
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