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今までろくに結婚なんて考えたことなかった。 それなりに好きだったけど、将来を考える相手ではなかった。 「……嫌だった?」 私のリアクションが悪かったのか、控えめに聞かれ首を横に振った。 「私も同じこと考えてた」 「……朝から勘弁して」 項垂れた翼。 首を傾げる私は喜んでくれると思ったから、拍子抜けだ。 「翼は嫌だった?」 「嫌なわけないじゃん。朝から可愛いこと言って……困る」 嬉しそうで全然困ったように見えない。 私だけじゃないんだと安心した。 「あ、ちょっと待ってて」 急に立ち上がってリビングを出ていった。 「はい」 本当にすぐ戻ってきて、拳を付きだした。 「いつでもおいで」 目の前に現れた鍵。 誰のどこのなんて聞かなくても分かる。 「……いいの?」 「ちなみに、それしかスペアないから。無くすなよ?」 小さいながらに、その重みが嬉しくなる。 「絶対無くさない」 嬉しいサプライズだけど、時間は止まってくれない。 「あ、そろそろ準備するね」 着替えや化粧品は持ってきたからそんなに時間はかからない。 「結華ドライヤーかけるから座って」 「自分でやるから」 「いいから。俺がやりたいの」 座ってから、ちょっと考える。 「……今までの彼女にもしてたの?」 「したことない。だから、してみたかったんだ」 大きな手が髪に触れて気持ちいい。 こんな些細なことが、嬉しい。
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