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初めてとは思えない手つきで乾かして、櫛で綺麗にまとめてくれた。 「はい、終了」 「ありがとう。本当に初めて?」 「うん。冬谷の見よう見まねなんだけどね」 確かに泉さんの手さばきは鮮やかだった。 「アレンジとか今度聞いてみよ」 「冬谷も来てくれたら喜ぶよ」 ひとりで朝をむかえるのと全然違う穏やかな空気。 会社に行くのが、いつもとは少し違う意味で行きたくない。 「そろそろ行くね」 「ん。終わってから来る?」 「荷物取りに来るよ」 「分かった。特に用事がないなら居ていいから」 「考えとく」 翼に見送ってもらうのも以前なら嫌でたまらなかったのに、今では笑顔を浮かべている私。 「あ」 靴を履いて振り返ると、いきなり抱き締められた。 「あの、私、行かないと」 段差があって、普段よりも更に身長差が開く。 「はい、もういいよ」 「何がしたかったの?」 「充電と後はマーキングかな?」 「マーキング?」 意味が分からずにいる私に、時計を見せる。 「え、もう!?」 「いってらっしゃい」 「行ってきます!」 天気も良くて、好きな人に見送ってもらって。 今日はいいことありそう。 なんて考えるのは単純なんだろうか?
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