2834人が本棚に入れています
本棚に追加
「結華お疲れ。もう帰るのか?」
「和希もお疲れ。うん。今日はちょっと寄りたいとこあって」
「そっか。相模は落ち着いたか?」
朝のことらしい。
和希も中野君も昼休みに私達が見ただけで、話したわけじゃない。
和希なりに気にかけていたみたいだ。
「多分。梓なりに葛藤してると思う」
「らしくない、よな」
「でも、話してくれるまで待つつもり。もし和希に話したとしても言わなくていいから。梓の口から直接聞きたい」
「分かった。んじゃ、またな」
「うん。じゃあね」
出入口に行こうとして、雨のことを思い出した。
傘がないからもう一度、更衣室に戻ろうとした瞬間に和希の声がそれを遮った。
「結華、そのままでいいよ」
「雨やんでた?」
「まだ降ってるけど、結華は必要ない」
「どういうこと?」
和希の言っていることが矛盾していて、余計分からなくなる。
「いいから。寄るとこあるんだろ?」
和希の言う通りに出入口のほうにゆっくり向かった。
正面から違う部署の女の子達が騒がしくすれ違い、少し会話が聞こえた。
「さっきの人カッコよかったね!」
「ホントに! 誰か待ってんのかな?」
「てことは、ここの社員? いいなぁあんな人が彼氏とか」
聞き耳たてなくても嫌でも聞こえてきた。
誰かいるみたいだけど、誰かさっぱり分からない。
頭の中がハテナマークでいっぱいになったところで自動ドアが開き、会いたかった人が、会いに行こうとしていた人が目の前にいた。
最初のコメントを投稿しよう!