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「お疲れ様」
「……お疲れって、なんでここに?」
雨は変わらず降り続けている。
傘を傾けながら翼が近づいて、私に傘の中に入るよう促した。
「朝は雨降ってなかったし結華持っていかなかっただろ?」
「そうだけど、仕事は?」
「予約分は全部終わらしてきたよ」
傘の中に入ったことで、翼との距離が一気に縮んだ。
「それで、わざわざ迎えに来てくれたの?」
「それもあるけど、ちょっと今日忙しくて。早く結華に会いたかったってのが本音」
ちょっとだけ疲れた表情。
それなのに、わざわざ迎えに来てくれたのが素直に嬉しかった。
「マンションか事務所に寄るつもりだったから、ゆっくり休んでたら良かったのに」
「結華の顔みたほうが疲れもぶっ飛ぶよ」
いつもより声が近い。
身体も近くて鼓動が早くなる。
会いたかったと思っても、いざ会うと素直にお礼も言えない。
「……私も早く、会いたかった」
雨と人混みと車の音で、私の小さな呟きなんて聞こえないと思った。
「もう一回言って」
しっかり聞こえていたらしく、ちゃっかり手も繋いだ。
「……もう言わない」
「んじゃ、早く帰ろうか」
繋がれた大きな手に安心する。
梓も中野君も和希にも、安らげる場所を見つけて欲しい。
私がこうしていられるように。
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