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「触れていい?」 「……キスしたくせに」 「嫌な思いはさせたくない。もう結華への想いも我慢しなくていいし、結華も受け止めてくれたから」 「……バカ」 赤い顔を見られたくなくて両手をのばして顔を埋めた。 耳にかかる翼の吐息に身体が震える。 「翼」 胸がいっぱいで苦しい。 嬉しさと愛しさが広がって甘い痛みが増す。 「ん?」 「……見つけてくれて、ありがとう」 色々な自分を、翼に会ったことで見つけられた気がするから。 「それは俺のセリフ。俺と出会ってくれてありがとう」 あの日、連絡しなかったら違う未来だった。 和希の優しさに甘えて、きっと今でも中途半端に傷つけた。 中野君の不器用な想いにも気づけないまま。 梓の葛藤もお構いなしにズカズカ踏み込んでいたかもしれない。 「……泣くなよ」 知らず知らずに溢れて流れた涙を、翼が唇で掠め取る。 知らなかった。 嬉しくて涙が出るなんて。 「ゴメン」 「謝らなくていい。そんな結華も沢山見せて」 目を覆う手を掴まれて、指の一本一本に口づけられる。 吐息と熱と瞳の強さにどうしようもなく、目が逸らせない。 「……結華」 更にお互いの唇が触れそうになった。
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