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「……うん。お酒じゃないみたいに味がしないの」
「とにかく帰るよ!」
顔色は全然変わってないのに、やはり足元はフラフラだ。
一緒にいたのが和希で助かった。
立ち上がって伝票を探しても見つからない。
偶然通りかかった店員さんに聞いてみる。
「あの、すみません。ここの伝票がなくて」
「先程、お連れ様がお会計しましたよ」
いつの間に。
そう言えば急いで来たから財布の中身も確認してない。
「そうですか。ありがとうございます」
梓に手をかしながら店を出た。
その間にも梓は無言。
帰ろうって連れ出したけど、自宅の鍵を今は持っていない。
あるのは、さっきまでいた翼のマンションの鍵。
「……梓? ちょっと寄り道していい?」
無言で頷いた。
泣きもしないし無理に笑ったりしない。
誰かのせいにして愚痴ったりしない。
鍵を開けてマンションに入ると、静かで翼が起きている気配はない。
「とりあえず座って」
珈琲を淹れてる間、やっぱり無言が私達を包む。
「……ゴメン」
「梓が飲み続けてたら明日、お店営業できないよ」
カップを置いて、私自身も緊張していたのを落ち着かせる。
「……何してるのかなぁ私」
若干、落ち着きを取り戻したように苦しそうに笑った。
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