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「いいよ。何が欲しい?」 「結華」 「はい?」 返事をすると、目を丸くされてしまった。 「……今日はこれで我慢しとくよ」 ため息をはいたあと、腕を引かれて唇に一瞬だけ触れた熱が、あっという間に離れた。 「おやすみ」 扉が閉じて、翼の言いたいことが分かって顔に熱が集まる。 翼も梓もいなくて助かった。 落ち着いてから梓の所に戻るとベランダにいるのが見えた。 冷蔵庫から缶ビールを取り出して私もベランダに出る。 「いい眺めね」 「うん。私も眺めてたら和希から連絡きた」 「……坂井君に謝っておくね」 「心配してたからそうしてあげて」 ビールをあけてふたりで静かに乾杯した。 「……結華はいつから榊原さんを好きになったの?」 「いつからかな。最初はキライだったし、ありきたりだけど気づいたら、だよね」 「そっか」 「梓は?」 「うーん。最初はなんとも思ってなかったよ。結華と同じ。だって、胡散臭い感じだし坂井君と仲良くなってから、あぁこの人って不器用なんだって知ったの」 梓はもう苦しそうに笑わない。 こんなに穏やかに自分が抱えている想いを打ち明けてくれる。 「ムカつくことも多かったけど仕事はできるし、なんだかんだ要領よくやっててある意味、尊敬してたかな」 ちょっと意外。 私も同期で、中野君が仕事出来るのは認めるけど、尊敬は今でも出来ない。
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