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微妙に距離を取りつつ、笑顔を崩さずに言えたけど頬はかなりひきつった。 「……ご用件は?」 「坂井和希と中野尚樹ってやついるよね?」 「おりますが今日は」 「あぁいいよ。今日は仕事で来ただけだから。君みたいに可愛い子ともお知り合いになれたし」 翼や月斗でだいぶ免疫がついたと思った。 スーツを纏っていても、整った顔立ちと振り撒きすぎる笑顔。 歯の浮くセリフに、軽い、チャラそうとしか思わない。 「……伝言があればお伝えします」 「マジ? じゃあ今日中に連絡してって伝えて」 「わかりました」 時間を確認すると、そろそろ戻らないといけない。 「では、私はこれで。伝言は必ずお伝え致します」 一礼して黒川さんに背を向けた瞬間、腕を掴まれ近すぎる距離に驚いた。 「……何か?」 「君は」 身動き取れず、耳に届く声は低くて内緒話をするみたいに囁く。 「和希か尚樹の女なの?」 言われた言葉を理解出来ずに思わず固まった。 「あれ? 図星?」 「……例えそうだとしても、あなたに答える義務はありません」 声を抑えて素っ気なく且つ丁寧に言うと、引くどころか余裕そうに笑っていた。 「強気の女っていいよね。意地の仮面取ったときのギャップとか」 「……失礼します」 何言っても無駄な気がした。 腕を振り払って、今度こそ彼と距離ができた。 「名前ぐらい教えてくれませんか? こっちは名乗ったのに失礼では?」 社会人の悲しいマナー。 会社じゃなかったらシカトして嫌味のひとつでも言ってやりたい。
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