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「……失礼致しました。神白と申します」
名乗ると満足そうに笑みを浮かべ、長い足をフル活用してあっという間に私の正面に来た。
「俺のことは嵐でいいよ。和希達と会社は違うけど、同期だから」
そう言って、右手を差し出してきた。
うまく自分を使い分けているようで、口調や表情がさっきよりだいぶ砕けた感じになった。
「会社ではそういうわけにはいきません。あの、私本当に戻らないといけないので失礼します」
角を曲がってから、ダッシュで戻ったかいあってギリギリで間に合った。
「珍しいね、神白さんがギリギリで戻ってくるなんて」
「……ちょっとトラブルが」
「そんなことより、さっきね。めっちゃいい男来たわよ!」
イヤな予感がする。
「神白さんが休憩入る少し前にアポで来てね。坂井君や中野君に負けず劣らずな感じで皆して見惚れちゃって!」
その時に受付にいた人達は興奮してキャーキャー騒がしい。
私が黒川さんを見かけなかったのは、休憩に入る前に受付に来た来客を案内して、そのまま休憩に入ったかららしい。
「……私、興味ないんで」
「名刺まで丁寧に渡してくれて、いい目の保養になったわ!」
テンションが上がっている状態では何を言っても聞こえてなさそうだ。
自慢気に名刺を見せているのを見れば、先程名乗っていた名前がそこにあった。
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