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「全く。あ、神白さん、この名刺ファイルに入れといて」 「はい」 受け取ろうと手を差し出すと、先輩は何かあったのか名刺を凝視している。 「……先輩?」 「あぁごめんなさい。見たことある名前だったから」 「後輩ですか?」 「いや、確か。採用試験の時かな? 彼、ここ受けてたはず」 彼が不採用のはずがない。 そう思ったのは実力主義の営業で、彼はこの会社に仕事で来ていた。 つまり、出来る男。 顔も良くてあの自分を使い分けているトークは営業向きだ。 「なんで断ったのか不思議って、ちょっとした有名人だったわね」 私が勤めている会社は有り難くも大手企業。 就職難の時期に、ここに入れたのは本当に運が良かった。 「そうですか」 名刺を受け取り、先輩はうるさかったのを一喝して去っていった。 「あービックリした。その人、また仕事でくるかもね」 出来るならあんまり会いたくない。 頭の回転が早くて口が上手い人間は苦手だ。 それに、なんとなく。 本当に良く分からないけど、嫌な感じもした。 こっちは初対面のつもりでも、向こうが知っているのは複雑だ。 仕事中に会って、立場を利用されれば何も言えない。 「……会わなければいいか」 今日みたいなことは偶然だ。 プライベートで関わることはないだろう。 そう考えたら楽になった。 あれこれ悩んで、翼に心配をかけたくない。 思い出したら、彼のぬくもりが恋しくなった。
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