13

28/34
前へ
/395ページ
次へ
「何か言ってなかった?」 中野君の声で、遠くなりかけた意識が戻った。 「あー、なんか言ってたね」 本当はしっかり聞こえた。 でも、なんだか言わない方がいいような気がして、言葉を濁した。 「ライバル、ね」 小声で呟いたからふたりには聞こえなかったみたい。 嵐さんの言動の目的はさっぱり分からない。 和希達にも、本心を出しているとは思えない。 今日会ったばかりの私に、本心を見せるかと問われれば確実にノーだ。 和希達に言っても反対するだろうし翼は……猛反対するか不機嫌になるのが目に浮かぶ。 「ふたりの忠告も聞いたし私帰るね」 「あぁ、悪かったな」 「ううん。こっちこそ。ありがとう」 和希達に背中を向けた瞬間に携帯のマナーモードが振動した。 「あ、翼」 電話に出ると応答がない。 「ど、どうしたの?」 「……遅い」 「ゴメンね。すぐ行くから」 「ん」 短い会話。 これだけのことなのに、凄く嬉しくなる。 気持ちも高まって足取りも軽い。 マンションに着いてオートロックを外すと翼の声。 出迎えてくれる瞬間が、堪らなく嬉しい。 「おかえり」 「あ、た、ただいま」 実家と自分の家以外で言うのがなんだか気恥ずかしい。 荷物を置いてから、翼のぬくもりに包まれる。 凄く安心できる、私の居場所。
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2834人が本棚に入れています
本棚に追加