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背中に手をまわして、翼の香りに満たされる。 「今日、遅かったね」 「同期の友達に絡まれちゃった」 「……男?」 「うん。それでね、翼に聞きたいことが」 身体を離して質問の途中で顔をあげると、頬と顎に翼の手がかかる。 「あのっ!」 「何?」 かなりの至近距離。 嵐さんには感じられない真っ直ぐさ。 見つめられるだけで、頭の中が翼だけになる。 「せっかくふたりきりなのに、俺の前で他の男の話題は禁止。分かった?」 私の額に翼の額がコツンと当たり、小さい痛みに笑みが零れる。 私が頷くと、満足そうに笑う翼が可愛く思うなんて、もう重症だ。 「触れていい?」 「……わざわざ、聞かないで」 「結華、恥ずかしがり屋だもんな?」 「……言わなくていいから」 静かな空間に、うるさいぐらい響く心臓の音。 翼にも聞こえているかもしれない。 「好きだよ、結華」 「……いきなり言わないで」 「結華は?」 「……私、も」 「聞こえないよ?」 この距離で聞こえないわけないのに。 「……意地悪」 「言葉にしないと伝わらないよ。前は言ってくれたじゃん」 頭では分かってるつもりでも、実際は色々な感情が邪魔して中々口に出来ない。 言えたあの日がキセキみたいに感じてしまう。 「……私」 「今、結華が感じてることを教えてくれればいい。キライでも鬱陶しいでも、なんでもいいから、知りたい」 キセキは、そう何度もおこらない。 でも、こういうキセキは自分でしかおこせない。 「私も、翼が好きだよ。キライなんて……翼は私の特別、だもん」 言葉にしてしまえば全然、平気。 耐えられないのは、相手の反応があるまでの、間だ。
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