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梓が顔を上げたので、目で訴える。
さっきまで和希と喋っていたのに、中野君が来た途端、別人みたく話さなくなった。
ここで沈黙が続くのはかなり気まずい。
とにかく、空気を変えることにした。
「和希から聞いたけど、今張り合ってるんだって?」
「あぁ」
「中野君、マイペースにやりそうなのに」
「今回はちょっと賭けてんだ」
「賭け?」
「今回の売上が良かったほうにひとつ、なんでも言うこときくこと」
「なんで今更賭けなの?」
「今、だからだよ。なぁ尚樹?」
和希が中野君に笑顔を向けているのに、中野君は納得いかないようにため息をついていた。
「……お前に勝てる気がしないよ」
「尚樹はまだまだ必死じゃないんだよ。本当なら俺より凄いくせに」
「買い被りすぎ」
和希がこんな提案をするぐらいだから、何か考えがあると思う。
中野君は分からないまま賭けにのっているみたいだし。
梓は相変わらず喋らない。
こんな一面を可愛く思いつつも、このままでは先に進めない。
どうしたものか考えていると、食べ終わった梓が立ち上がる。
「梓」
後を追いかけようと、立ち上がる私を抑えたのは和希だった。
「携帯置いてあるし、また戻ってくるよ」
言われてまた座り直した。
「……悪い。気遣わせて」
中野君が謝ると思わなかったから、食べようとしたおかずをポロッと落とした。
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