14

17/20
前へ
/395ページ
次へ
「……バカだね」 「嵐さんに言われたくないよ」 本当に色々な表情をする人だと思った。 呟きは私に向かってというよりは、自分に向けての言葉のようだった。 「……離れてしまう理由、か。結局、それを選んだのは俺自身だっただけか」 「誰かを想ってもそれが必ず報われるわけじゃない。何もしないで何かが始まることはない」 嵐さんがグラスの中を勢いよく空にして、店員さんを呼んだ。 相変わらず笑顔の匠さんがわざわざ私達のテーブルに来た。 「同じの」 「かしこまりました。結華ちゃんは?」 「あ、じゃあカシスオレンジお願いします」 「了解。少々お待ちください」 綺麗に一礼して下がった。 「ユイカちゃんの始まりはなんだった?」 言われた瞬間にあの日のことが蘇る。 「きっと嵐さんとそんなに違わないよ。些細なきっかけを彼がくれた。私は彼に捕まって逃げられなくなった」 「……逃げるつもりもないでしょ?」 「今のところはね。でも、この先はわからないから。例え想っていても、離れてしまう日がくるかもしれない。人は弱いからね」 「お待たせしました」 タイミング良く匠さんがドリンクを持って来てくれた。 「聞こえたからお兄さんからひとついいかな、結華ちゃん」 「はい?」 ドリンクを置いて、私を見つめる匠さんの表情は変わらない笑顔。 「アイツならこう言うよ、絶対に」 「え?」 『逃がさないから』 匠さんの声と重なって響いたのは、よく知っているもの。
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2834人が本棚に入れています
本棚に追加