14

18/20
前へ
/395ページ
次へ
振り返れば不機嫌な翼がすぐ近くにいた。 「ね?」 可愛らしく首を傾げる匠さんに言葉が出ない。 「ユイカちゃんの彼氏?」 嵐さんの問いにハッとしてようやく声が出た。 「な、なんでココにいるの!?」 「匠から連絡きたんだ」 「……いつからいたの?」 「結構前から」 素っ気なく答える翼をよそに、呆然としている私の横で、匠さんが声を殺して笑いを堪えていた。 「あー腹いてぇ! 結華ちゃん怒らないでね。これでも翼ガマンしたほうだから」 「匠」 「結華ちゃんがその人と楽しそうに笑ってて、翼がテーブルに八つ当たりしちゃうぐらいにね」 そう言われて派手に金属音がしたのを思い出した。 「せっかく黙っててやったのに自分から飛び出すとか意味ないじゃん」 「結華が悪いんだよ」 「なんで私?」 機嫌は悪いままで態度も素っ気ない。 「……帰る」 理由を話さないまま背中を向けてあっさりと店を出ていった。 「なんで、翼が怒ってんのよ」 ポンッと頭に大きな手がのり、優しく撫でる。 「怒ったんじゃないよ」 「……分かってます。彼を傷つけたんですよね」 「結華ちゃんの口から、あれ以上ききたくなかったんだよ」 小さく深呼吸してから、嵐さんに頭を下げた。 「ごめんなさい。今日はもう帰ります」 「あの人がユイカちゃんの"絶対に裏切りたくない人"?」 「うん。だから行かないと」 「いいよ。また誘うから」 「んー彼が嫌がるから皆でならね」 「いーよ。お疲れ」 「お疲れ様。匠さん、また来ますね」 「あぁ。いつでもおいで」 軽く会釈してから急いで翼の後を追った。
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2834人が本棚に入れています
本棚に追加