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「翼!」
一瞬だけ足を止めてから振り向くことなく歩き出した。
「待ってよ」
追い付いて翼を見上げると、さっきの機嫌の悪さがウソのように満足気だった。
「初めてかな。結華が俺を追いかけてくれるなんて」
やられた。
でも、本当に翼が嬉しそうに笑うから何も言えない。
「本当はね、ちゃんと最後まで見守ってからって思ってたんだよ」
抱きしめられて、ゆっくりと翼が話してくれた。
「ずっとイライラしてたのを匠にからかわれても、帰る気はなかった。結華の考えも分からなくもないけど、心配で」
「ありがとう。ゴメンね、心配かけて」
「最後のアレはムカついたけど、他にもいいこと聞けたから許してあげるよ」
「……偉そう。盗み聞きしたくせに」
「男と会う結華が悪い」
「ちゃんと許可もらったじゃない」
「イヤなもんはイヤなんだよ」
子供っぽく拗ねてしまって小さなため息をついた。
「じゃあ、どうしたら機嫌直してくれるの?」
「とりあえず、今日は泊まって」
とりあえず、というフレーズにイヤな予感がする。
なるべく考えないようにして、翼が私の手を引いて歩き出した。
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