14

20/20
前へ
/395ページ
次へ
歩いている間、翼が怒った理由を考えていた。 「あのね、離れたいわけじゃないから」 いつか離れてしまうかもしれないっていうのは、やっぱり頭の片隅にある。 「……離れたいなんて言わせないよ」 「言わない」 「匠の店で言ったのもウソじゃない」 思い出して、あの言葉が頭の中で甘く響く。 「絶対に逃がさないから」 無言で頷くと、俯き気味の視線を合わせた。 言葉はなかった。 ただ、もっと近づきたくて。 触れたくなった。 「……ヤラシー顔」 「……ゴメン」 「なんで謝るんだよ。行こう」 マンションに着いてから、翼が私を抱きしめる力が強くなった。 「結華」 囁く名前さえも熱くて。 呼ばれるだけで嬉しい。 視線が絡み、ゆっくり目を閉じると与えられる熱が身体中に広がる。 「ねぇ結華。もう一度言ってよ」 「……何を?」 イヤな予感がする。 「なんだったかな。結華がベッドで言ってくれたじゃん」 浮かんだのはお互いに熱くなった身体。 視界いっぱいにある翼の顔。 「……忘れた」 「俺の機嫌悪くなるよ?」 まさかこんな形でまた言うことになるなんて。 「……どこにも、いかないで」 恥ずかしくてどうにかなりそう。 顔を見られたくなくて、翼の胸板に顔を押し付けた。 「どこにもいかない。ずっと、そばにいる」 耳元で囁かれた、思いがけない言葉。 背中にまわしていた両手に力を込めた。
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2834人が本棚に入れています
本棚に追加