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「ゴメンね、忙しいのに」
遠くで大きく翼を呼ぶ女性の声。
杏さんや泉さんじゃない。
『終わったら連絡して』
「うん」
電話を切ってからモヤモヤが徐々に大きくなった。
顔も知らない相手にムカムカする。
仕事だしお客さんだからと分かっていても、あの人の隣にいてほしくないと思ってしまう。
外で会ったことがある一部の女性達に、私の知らない翼を知られているようで気分が悪い。
「榊原さんの反応は?」
「想像通り」
梓と仕事場に向かいながら、報告する。
翼と会ったことで、彼がどう反応するか想像できていたらしい。
「やっぱりね。男とこれ以上会わせるかって感じだもん。それにしても、坂井君は意外と過保護ね」
過保護と言えばそうかもしれないけど。
「怒ると怖いよ?」
「それは結華がうまいことやらないからよ」
もっともすぎて何も言えない。
「あの坂井君があそこまで怒るなんて、その嵐って人とよっぽどのことがあったのかしらね」
詳しくは知らない。
嵐さんは和希達をライバルにしたかった。
「多分、そのあたりのことも話してくれるはず」
和希が一緒にいて、話してくれるなら丁度良い。
もしかしたら、お互いのわだかまりみたいなものが晴れるかもしれない。
「それじゃダメよ」
「どこが?」
「ケリつけに行くのに、相手に振り回されたくないじゃない。話してくれるのを待つもの大事だけど、駆け引きではダメ。結華がうまいこと誘導していくの」
あれこれ考えてみたけど、途中から面倒になって止めた。
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