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「それは梓の得意分野じゃん。私には無理」
「だから、後手にまわってゴチャゴチャ悩むんでしょ?」
「じゃあ、中野君の時はどうだったのよ。梓らしくなかったみたいだけど?」
イヤなところを突かれたようで、急に静かになった。
他のことには相手を言い負かす梓だけど、本当に動揺したら黙ってしまうようだ。
ウソは言いたくない。
だけど、認めてしまうのも悔しいからだと思う。
「そう言えば、中野君いなかったね」
仕方ないから話題を変えた。
「今更? 今日は外回りだって」
呆れながらもすんなり答えた梓に、ちょっと意地悪な質問。
「そうなんだ。なんで梓が中野君の今日のスケジュールを把握してんの?」
「……坂井君に聞いたの」
「じゃあ、そういうことにしといてあげるね」
「早く戻るよ」
耳が赤かったのは言わないでおいた。
仕事に戻ればさっきまでのおふざけなどなく、やることをこなす。
書類整理を夢中でしていて、私の前に誰かいる気配さえ気づかなかった。
隣から視線を前に向けられたまま、しかも笑顔で小突かれ何事かと顔をあげた。
「今日の十五時にお約束している黒川です。取り次いでもらえますか?」
呆然としている私をよそに、嵐さんは営業スマイル全開で名刺を差し出した。
「どうかしましたか?」
「……いえ。少々お待ちください」
電話で確認すると、あっさりと指定された場所を伝えるよう指示があった。
「お待たせ致しました。黒川様、五階の第二会議室へどうぞ」
「ありがとうございます」
嵐さんがエレベーターに乗ると、案の定、周りが騒がしくなった。
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