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「アイツにも散々言われた」 肩をすくめて小さく笑う。 「他のことは要領良く器用にやるくせに肝心なところはバカだって」 あぁ、なんとなく分かる。 顔も良くて仕事も出来ていても、笑った顔はどこか胡散臭げで本当に笑っていないから。 「アイツに会ったらまた言われるな」 「……言ってもらって」 私の微かな呟きがしっかり聞こえたようで、苦笑してまた肩をすくめた。 「そろそろ行くよ。和希が来たらまたうるさくなる」 「忘れないでよ?」 「分かってる」 「……和希も連れて行くからね」 「好きにしたらいいよ」 こういうところを見るからバカだと思う。 嵐さんが想っている人も、気づいて欲しかったのかな。 「じゃーね。気をつけて帰って」 嵐さんの背中を見ながら、うまく伝えられないもどかしさが襲う。 以前、翼にも抱いたことがある。 結局、あの時は翼に気持ちを後押しされて最低限なことしか言えなかった。 翼はそんな私を受け入れてくれた。 一緒にいることで、新たに芽生えた感情や溢れる言葉は私自身がうみ出したもの。 理解するなんて理屈よりも、自分自身が感じれば考えなくても自然と表現できる。 嵐さんは、きっとまだ知らない。 私も嵐さんを知らない。 出来ることなんて、ほんの些細なことしかない。 余計なお節介かもしれないけど、伝わった喜びを私は知っている。 それがどんなに嬉しいか。 温かいか、安心するか。 知って、ほしいんだ。
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