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「……」
「選ばないんだったら全部するよ?」
「え、ぜ、全部?」
恐る恐るな私に対して、翼の笑顔は崩れない。
「足腰立てないようなキスして結華の着替えが終わったら俺のマンションに行こうか」
冗談に全く聞こえない。
翼ならやりかねない。
「……散らかってるけど、どうぞ」
結局、翼には敵わない。
「綺麗にしてるのに、そんなに俺を上げるのイヤだった?」
「いきなり来たくせに。心の準備ぐらいさせてよ」
部屋に人を呼ぶなんて、最近は梓ぐらい。
「意地張らずに素直にすれば良かったのに」
「まさか、恋人に脅されるとは思ってなかったもんですから」
「ちゃんと選択権を与えたはずだよ」
「選べない選択肢なんか脅しと同じよ、全く」
紅茶の準備をしながら、この空間に翼がいることが嬉しいような恥ずかしいような、複雑な思いを感じずにはいられない。
「どうぞ」
「ありがとう。結華の部屋ってシンプルだね」
「掃除するのが面倒だから、あんまりごちゃごちゃしたくないだけだよ」
大学時代に友人の部屋にお邪魔したときは、ピンクの小物やぬいぐるみと大変女の子らしい部屋だった。
人の趣味にどうこう言うつもりはないけど、苦笑いするしかなかった。
「結華らしいね」
さっきみたいに不自然な笑みではない。
ホッとしたのも束の間、カップがソーサーに置かれると先程の笑みを再び向けられた。
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