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準備をしている間は、肩の力が抜けた。
「翼が心配するのも分かるかも」
杏さんが手を止めることなく、笑いを堪えながらそう言った。
「心配?」
「あのふたり」
「?」
私たちだけしかいないのに、小声で話し出した。
「翼ってあんな性格だけど、実際はかなり焦ってんのよ」
「は? 翼がですが?」
この間、私が泣いた時に焦ってはいたみたいだけど。
「だって、坂井さんは結華チャンのこと見るからに大事にしてるし、黒川さんも何気に結華チャンのこと気にしてるしね」
会って間もないのに、よくみている。
「結華チャンの気持ちを疑ってるんじゃなくて、翼でも不安になるってこと」
いつも、私の背中を押してくれる。
私が不安にならないよう、翼が不安になる姿なんて、きっと見せないようにしてたんだ。
「さて、そろそろ行きますか」
良い具合に紅茶が香り出した。
「はい」
「ごめんなさいね、お待たせしてしまって」
「いえ、ありがとうございます」
お互いが無表情だったのに、私たちが戻るとすかさず笑顔になったのはさすがだった。
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