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「しないよ。誰かに触れる時は俺にとっても特別」 私はこの人のことを何も知らない。 会うのだって、お互いに二回目なのに榊原翼はまるで以前から私を知っているみたいに感じる。 「立ち話も疲れるから移動しよう。何か食べたいリクエストは?」 「任せる」 どこに連れて行ってくれるのか楽しみだ。 お店によっては雰囲気を一気に冷めさせてくれる。 「うーん。俺の趣味でいい?」 「どうぞ」 「じゃあ行こうか」 彼の一歩後ろを歩く。 この間までは全く想像しなかった光景だ。 「隣」 「え?」 「隣がいい」 彼が立ち止まっている間に遅れていた距離が縮まった。 「いなくならないでね」 「……逃げたりなんかしないわよ」 「俺に会いたくなかったんでしょ? なんで連絡くれたの? しなかったら連絡先も名前も知られずにすんだのに」 確かに。 梓に背中を押されたのもある。 「そっちこそ、なんでわざわざあんなことして連絡先書いておくのよ」 榊原翼こそ人のこと言えない。 「俺はまた会いたいと思ったからだよ」 「なんで?」 理由なんてないかもしれない。この人もさっきのナンパ男となんの違いもないのなら、付き合うだけ時間の無駄だ。 「俺は君の質問に答えたよ。俺も質問の答えが聞きたいんだけど」 ……正論だ。 はぐらかされた気もするが、質問に答えてくれた。
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