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「ありがとう、結華ちゃん」
「……私、何もしてません」
お礼を言われることなんてしていない。
「嵐に会ったら一発ぶん殴ってやろうと思ってたから。手間が省けた。手、痛かったでしょう?」
「こんなの、全然」
初めて見る泉さんの泣きそうな顔。
「坂井も。今日までありがとう。もういいから」
「俺もお礼を言われることなんてしてませんよ。嵐に言いたいことは言えたし、嵐の本音も聞けた。結華が一発かましてくれたから、俺は満足です」
冷たい瞳は温かさを取り戻し、柔らかい口調になっていた。
「あの、泉さん。もういいっていうのは?」
泉さんが嵐さんの好きな先輩だっただけでも驚いたのに、更に驚く発言をした。
「坂井に大学時代、彼氏役を頼んだの」
「彼氏、役?」
意味が掴めず固まる私。
嵐さんも言葉にならないらしい。
「まさか坂井が引き受けてくれるなんて思わなかったけどね」
「俺は周りの女が鬱陶しくて丁度良かったんです」
混乱して頭の整理が出来ない。
とりあえず、泉さんは和希と付き合っていたわけじゃないってこと?
じゃあ、なんでフリなんかする必要があったのか。
「……意味、分かんねぇ」
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