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「まさか先輩から、あんなことを頼まれるとは思わなかったよ」
「……じゃあ、口止めしたのは?」
「私のワガママに付き合ってもらうのに、坂井にはウソは言わせたくなかった」
結果、否定もしないが肯定もせずにいたから、ウワサが広まったらしい。
「……何がしたかったんだよ」
「年上の女が、ひとつだろうが年下に惚れるのは怖いのよ」
嵐さんの想いが、先輩に届いたらってずっと思ってきた。
「……惚れる?」
どんな結果でも、今よりは先に進むことができるから。
「やっぱりバカ。これだけ言ったら普通分かるでしょうが」
呆れたようにため息を溢した。
「……でも、俺は」
言いにくそうに言葉を濁した。
「瑠璃のこと?」
「……知ってたのか」
「私の耳にも入ったぐらいだからね」
おそらく、嵐さんが犯した罪のことだろう。
嵐さんの表情が暗くなっていく。
泉さんは、そんな嵐さんの頭を撫でた。
「本当に苦しんできたんだね。もう大丈夫だから、泣きそうな顔しないで」
優しい声でそう言った。
「それに、瑠璃は妊娠なんてしてなかったよ。嵐の気をもっと自分に向けさせたかったんだって」
耳を疑い、信じられない様子で泉さんの言葉の続きを待った。
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